第191章 彼が現れなければ、彼女もうざったく思わなくなると思ったわけ?

「似顔絵って、おいくらですか?」

中野航平は、路上に出した画家の小さな屋台の前で足を止めて尋ねた。

「1枚1万円。……お客さん、自分の似顔絵?」

声をかけながら顔を上げた画家は、航平を認めた瞬間、目をぱっと輝かせる。

「いや。妻を描いてほしい。これ、妻の写真なんだけど……描ける?」

そう言って、航平は長谷川栞の写真を差し出した。

画家は数秒眺めただけで、即答した。

「描けます、もちろん。奥さま、目鼻立ちが繊細で……生まれつきモデルみたいだ」

栞を褒められた途端、航平の口元が勝手に緩む。

それから航平は写真を手にしたまま、画家が仕上げるのを黙って待った。

当然、周囲の視線も...

ログインして続きを読む